漢方について

自然界の一員

自分の体の声を聞くことが、健康の第一歩

 「健康でありたい」と願う気持ちは、多かれ少なかれ誰の中にもあるはずです。しかし、そもそも健康とは何なのでしょう。少なくとも、「病気ではない」というだけでは、健康の条件は満たせないはずです。たとえ、病院の検査で異状がなくても、本人がつらいと感じる症状を抱えていたとしたら、やはりそれは健康な状態とはいえないからです。

 漢方では、「病気」としては成り立たないようなちょっとした症状も、何らかの異常を訴える体の「声」であると考えています。そして、体が声をあげた理由を突き止め、解決 することで、その先にある「病気」を防ごうとするのです。

 「今は元気だから、病気になったら医者に助けを求めればいい」と自分に言い聞かせ、自分の体がどこかで助けを求めて、悲鳴をあげているのに、耳を閉ざしていませんか。体の不調に早く気づき、体が何を欲しているか、どんなことをすれば体が本当に気持ちよくなるのか、といったことを考えることが、健康を追求する第一歩なのではないでしょうか。また、風邪にしても、ひかないのに越したことはありませんが、体が「今どうしても風邪をひいて休みたい」といっているのなら、風邪をひいてしまうのも、ある意味では 「健康」なことだといえないでしょうか。

 各人の健康の定義は、最終的には個人にゆだねられるものです。また、人には百人百様の「体質」や「気質」があり、後天的に矯正できるものもあれば、遺伝子的に決められていて人間の力ではどうすることもできないものもあります。そのうえで、それぞれの人が自分の健康を考えるとすれば、まずは体の声を聞き、体とコミュニケーションをとること が必要となってくるはずです。

 自分の体と対話することは、それほど難しいことではありません。例えば、お昼の十二時になったとき、習慣的に食べ物を胃袋につめこむのではなく、おなかの空き具合はどうか、どんなものを体が欲しているか、それは今の自分にとって必要なものかどうか、と考えてみるだけでもいいのです。こうして自分の体と仲よくしようとするとき、これからお話しする「自然と人間とのかかわり」や、「気・血・水」「臓腑理論」「八綱弁証」といった漢方独特の考え方がきっと役に立ってくるはずです。

体の中でも、季節はめぐっている

 人の一生は、よく季節にたとえられます。芽生え、成長する春。光輝く夏。実りの秋。 すべてが雪に閉ざされる冬…。

 ともすれば非現実的な夢や憧れを抱き、夢中で突っ走る10代や20代は、季節でいえば春。さまざまなことを学び、覚えて、心身ともに成長する時期です。見た目の成長は20歳前後でストップしますが、体の中のエネルギーはまだまだ成長を続けています。仕事や勉強などで多少無理をしても、体がちゃんとついてきてくれるのは、このエネルギーの成 長のおかげなのです。

 仕事に子育てに、忙しくも充実した生活を送る30〜40代は、さながら夏です。体力的にも、20代のころと同じくらい元気なようで、その実、風邪をきっかけにどっと疲れが出て寝込んでしまったり、以前は平気だった夜更かしがあとをひいたり…。ちょっとしたきっかけで、「無理がきかなくなったな」と感じ始めるのがこの時期です。

 特に、女性の30〜40代は、女性ホルモンの分泌が少しずつ衰え、それに伴う症状がちらほらと顔を出し始めるころです。いわば、社会的には真夏の季節でありながら、肉体的には少しずつ秋風が吹き始める時期でもあるのです。男性の場合は、女性ほどはっきりとした肉体の変化はありませんが、健康に不安を覚える時期であることにかわりありません。 実際、高血圧や高脂血症、高尿酸値といった成人病の種を抱える人も多くなります。

 漢方のもっとも古い書物である『黄帝内経』には、「男性は8の倍数、女性は7の倍数で年をとる」という記載があります。このうち、女性のほうを例にとってみましょう。「女性は、7才にして乳歯が永久歯に抜け変わり、髪の毛が豊富になる。14才で月経が始まり、21才では身長が伸びきる。28才では身体がもっとも強壮になるが、35才になると次第に肌や髪が衰え出し、42才では髪に白いものが目立つようになる。49才で月経が停止する」。現代とは多少のズレがあるものの、今から2千年以上も昔から、自然の摂理が今と 同じように働いていることがうかがわれます。

 この『黄帝内経』には、気候や季節など、自然環境が体に及ぼす影響について述べられており、自然界の一員である人間が健康に暮らすためには、いかに自然の法則に逆らわず に生活することが大切なのかが詳しく書かれています。ここに出てくる養生法は、今の世 の中にも十分に通用するものです。

 エアコンディショニングされた部屋で1日のほとんどを過ごす現代人は、ともすると季節が移り変わることさえ忘れがち。そのため、気候や季節が体に影響を及ぼすといっても、ピンと来ないという人もいるかもしれません。「今は、暑さも寒さもエアコンでしのげるのだから、あまり関係ないのでは」と思う方もいるでしょう。しかし、これだけ文明が発達しても、エイジングにさほどの変化が現れなかったように、いくら人工的な環境で生活をしていても、私たちの体には、ちゃんと季節に応じた変化が起こってくるのです。

 例えば、冬と夏との体感温度の違いを考えてみてください。冬といっても、私たちが過ごす部屋の温度は、だいたい23〜25℃くらい。場所によっては、27℃くらいまで上がることもあります。一方、夏の冷房温度はといえば、やっぱり23〜27℃。つまり、部屋の中にいる限り、冬も夏もさほど気温は変わらないのです。でも、いくら家の中といっても、1年中同じ格好をしている人はいないはず。たとえ27℃でも冬のさなかにTシャツ一枚では肌寒く感じますし、夏は20℃近く下がっていても、セーターを着込むほどではありません。冬と夏とで、これほどまでに体感温度が違うのは、湿度や光といった条件の違いだけでなく、人の体にも「夏仕様」と「冬仕様」があるからなのです。

 このような人の体と自然とのかかわりを常に考えながら、病気を予防・治療していくの が、漢方の大きな特徴です。

「木の芽どき」の精神状態を探る

 昔から、「木の芽どきには、おかしな人が多くなる」という話をよく聞きます。きちんとした裏付けがあるのかどうかは分かりませんが、実際、精神病の患者さんの中には、春 に症状が悪化する人が多いといいますし、五月病なる症状も、春という季節と何らかの関 係があるように思えます。

 漢方からみると、春は「上へ、外へ」というリズムをもった季節。木々は上へ上へと伸びてゆき、冬ごもりの虫や冬眠していた動物も外に出てきます。この時期、人間も「上へ、外へ」のエネルギーが高まってきます。冬に蓄えられたエネルギーを外に発散するために、毛穴は少し開き、体内の「気」や血の流れも上部に昇りやすくなります。なんとなく体を動かしたくなったり、ピクニックに出かけたくなったりするのは、お天気のせいだけではないのです。健康な人なら、気持ちもうきうきとしてくるはずなのですが、気や血が上のほうに昇りやすい体質の人は、ちょっとしたことで頭に血が昇る…といったことになりかねません。また、ストレスをためこんで、体内のエネルギーをうまく発散できなくなっている人も、少々危険です。上へ外へと出たがっているエネルギーが体内で滞り、それが突然爆発して、感情の起伏が激しくなったりするからです。このあたりに、「木の芽どきは 〜」という説の裏付けがあるようにも思えます。

 さて、この「上へ、外へ」という自然界のリズムは、冬から春、春から夏へと季節が移行するまで続きます。夏という季節は、植物が生長のピークを迎えるように、人間の生命 活動もある種のピークを迎える時期です。

 このピークを越えて、秋風を感じ始めるようになるころ、自然のリズムは「下へ、内へ」という動きに変化してきます。人の体も、毛穴を閉じ、来るべき冬に備えて、エネルギー の温存を始めます。なんとなく物思いにふけりたくなるのは、体だけではなく、心のほう も「内へ下へ」のリズムと同調するせいかもしれません。

 そして、動物が冬眠し、木々も春の芽吹きに備えて葉を落とす冬。何かと忙しない時期 ではありますが、ふと気がつくと、体の動きはどことなく鈍っています。

 寒さで動作が鈍くなるのは、「ちょっと休もうよ」という体からの合図ともいえます。社会生活を営んでいる以上、冬眠するわけにもいきませんが、せめて睡眠時間をたっぷり とり、体を外側からも内側からも温めて、来るべき春のためにエネルギーを蓄えるべき季 節といえるでしょう。

湿気の多い日本。だからこんな病気が多い

 漢方が考える健康の基本は、自然界と体のリズムを呼応させることにあります。ここでいう「自然界」とは、季節の移り変わりのことだけを指すのではありません。住んでいる 土地の風土もまた、体に影響を与える自然環境のひとつといえます。

 私たちが住む日本の風土を考えてみましょう。四季があって、温帯〜亜熱帯。全般的には穏やかな気候ですが、島国で海に囲まれていて、雨も多いため、湿度が高いという特徴 があります。

 人間の体は、自然環境に左右されます。寒いときには体が冷えやすく、乾燥した秋にはのどが嗄れやすいように、湿度の高いところに住んでいると、体の中の湿気も多くなってきます。この湿気(漢方では「水毒」といいます)は、体にとって必要な水分とは違います。いわば、悪玉水分ともいえる物質で、体の中に滞ると、さまざまな病気の原因となっ てしまいます。

 詳しくは〈水〉の項で紹介しますが、この「水毒」によって引き起こされる病気は、実にさまざま。ぜんそくや花粉症など、最近増えているアレルギー性の病気も、水毒が関係しているといわれています。病気とまではいかなくても、雨の日はとても憂うつになる、梅雨どきはどうも体調が悪い、という人は、体内に水毒がはびこりつつある状態といえる でしょう。

 ただ、湿気が体によくないといっても、自然環境を変えるわけにはいきませんし、からっと乾燥した土地に移り住む、というのもあまり現実的ではありません。では、湿度の高いところに住んでいる私たちは、どんなことに気をつければいいのでしょうか。

 いちばんのポイントとなるのは食生活なのですが、たいていの人は、水分を知らず知らずのうちにとりすぎているうえ、どういうわけか、水毒がたまりやすい食べ物や食べ方ばかりを好むようです。例えば、お刺身のような生もの。食事の前の冷たいビール。アイスクリームや冷たいデザート…。こういった食習慣を少し改めるだけで、体内の水毒もずっ とたまりにくくなるのです。

 そうはいっても、やっぱりお刺身は食べたいし、暑い盛りのビールもそう簡単にあきらめられるものではないはず。また、いつも体のことばかりを考えているわけにもいかない のが、現実でしょう。

 ただ、人間の体は、自然環境に左右されること、そして、それぞれの環境に応じた生活 の方法があるということだけは、ぜひ覚えておいて欲しいと思います。

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