漢方について

難病

難病

 「難病」という言葉には特別な定義はありませんが、一般的に、1)原因や治療法が不明あるいは未開発 2)病気の経過が長期にわたり、患者さんやその家族が経済的精神的あるいは社会的負担を強いられる病気を指して言うことが多く、現在、130の疾患が、国の「難治性疾患克服対策事業」の対象とされており、このうち、56の疾患が「特定疾患」として、医療費の助成などの対象とされています。これらの疾患は西洋医学的にも根本的な治療法がないものが多く、漢方的にも対応が難しいのが現状です。

 たとえば、いわゆる神経変性疾患(脳神経の細胞が変性すなわち細胞死にいたる病気、筋萎縮性側索硬化症や小脳変性症などが代表的)に対しては、漢方治療の有効性は今のところないと考えられますし、網膜色素変性症なども以前勤務していた研究所で漢方や鍼灸治療の効果について調べましたが、残念ながら有効性は認められませんでした。

 しかし、私のこれまでの経験や、発表された文献などから、「免疫異常」に関係するいくつかの疾患には漢方治療の有効性が期待できるものがあるようです。

 特に、潰瘍性大腸炎、ベーチェット病、重症筋無力症、全身性エリテマトーデス(SLE)、などは、漢方治療を併用することで、西洋薬の量を減らしたり、副作用を軽減できた例が報告されています。私のクリニックにも、これらの病気の患者さんがそれぞれ、何名か通院されています。

 もう少し詳しく説明しましょう。

 潰瘍性大腸炎は、直腸に限局するタイプから、全大腸に広がるタイプまでその程度は様々で、その治療も、お薬の服用で症状が改善する場合もあれば、ステロイド剤の注腸をおこなったり、重症例では、手術的に大腸を取り去る治療が必要なケースもあります。漢方治療が有効な潰瘍性大腸炎は主に直腸限局型のタイプで、『真武湯しんぶとう』や『半夏シャ心湯はんげしゃしんとう』、『桂枝加芍薬湯けいしかしゃくやくとう』などが用いられます。

 また、出血が続く例に『三七人参さんしちにんじん』が有効なケースも経験しています。

 ベーチェット病は、口腔内のアフタ性皮膚炎、外陰部潰瘍、虹彩毛様体炎などの眼症状、ざ瘡用皮疹などの皮膚症状を主症状としますが、腸の潰瘍を併発する消化管ベーチェットや脳神経に病変が出現する神経ベーチェット、血管炎をきたす血管ベーチェットなどの亜型もあります。アフタ性皮膚炎に対しては半夏シャ心湯(はんげしゃしんとう)や甘草シャ心湯(かんぞうしゃしんとう)、外陰部潰瘍や眼症状、皮膚症状に対しては『温清飲うんせいいん』や『竜胆胆潟肝湯りゅうたんたんしゃかんとう』が用いられます。また、免疫力の調節のために『補中益気湯ほちゅうえっきとう』を合方することもしばしば行われます。

 その他、重症筋無力症には補中益気湯などの補気剤が有効なケースが多く、SLEでも、発熱や蛋白尿、皮膚症状に温清飲や補中益気湯などが用いられます。

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